中国という海外で生活をしていることもあり、一時帰国した時は必ず人間ドックを受診している。
去年は滞在期間も短かったこともあったが、帰国10日前に受診し、さらには運悪く再検査になり、
急遽、空き時間に半ば強引に再検査予約を入れていただいたという経緯がある。
(どうやら私は胃の下部食道活約筋が弱く、胃の内容物が逆流しやすいため、よく逆流性食道炎を
引き起こしてしまうようである。食事をした後、すぐに横になったりすると症状が顕著である。
幸い再検査結果は、上記の判断から「異常なし」となった。)
そのため今年は、万が一再検査があってもいいように、帰国後すぐに受診した。
8時半、病院の検診センターで受付が始まる。
私の受付番号は19番で、そのあとも10人ほど並んでいた。
検診者が待合ソファーにかけ、自分の名前が呼ばれるのを待っている。
無事受付も終わったのに、心はなぜか、ソワソワ。どうもしっくりこない。
何かが違うと心が訴えかけている。
次の瞬間、このソワソワ感の原因が分かる。
検診者30人+医師、看護師、事務職員がいるのに、部屋が非常に静かなのだ。
お互いが気を遣いあい、話をしたりせず、自分の順番を待っている。
中国でも何度か人間ドックを受診したことがあるが、必ずと言ってよいほど話しかけられる。
検診者同士の話し合いが始まり、それは時には受付の事務員さえも巻き込んだりする。
中国は地域差も激しいので、一概には言えないが、瀋陽人はとにかくおしゃべり好き。
さらに思っていることをそのまま言葉にしてしまう、歯に衣着せぬ性格の方が多い。
そのため「さっきのレントゲンの先生は愛想が悪かった」「血液検査の人は美人だった」
「〇〇人間ドックの方が、料理が豪華だわ(中国は検査終了後、軽食が出たりする)」など、
みんなでワイワイ、ガヤガヤ。
それに慣れてしまっていた自分自身に気づいたのである。
瀋陽の場合、お世辞にも「笑顔がはち切れんばかりの素晴らしいサービス」はほぼ期待できない。
特に医療現場では、ほとんどが事務的で心を和ませるようなこやかな表情は、皆無と言っていい。
しかし仕事は確実にこなす。そんな生活の中にいる。
そのため、日本の“過ぎるほど”の丁寧なサービスに久々に触れたせいか、
こちらが必要以上に恐縮してしまい、すべて検査が終わるころにはずいぶんと疲れてしまった。
以前は日本のサービスを基準値とみなし、それに程遠い中国のサービスを受けては怒りくるっていた。
さらには(当たり前だが)すべて中国語でやり取りされることに、不安で押しつぶされそうだった。
しかし今回、日本の空港に降り立った瞬間から、(当たり前だが)大量の日本語が聞こえ
“過ぎるほど”の丁寧なサービスを受けたとき、戸惑う自分に気づき、
「とうとう私も日本がついに、アウェイになりつつあるのかな」なんて思ったりした。(笑)
サービス業に長く従事し、お客様第一主義を徹底的に教育され、日々実践した若かりし頃。
私も「サービス員」として最高のものを提供する。だから、世の中のサービス員もサービス員として
誇りをもって、お客様に最高のサービスを提供すべきだ!と思っていたあの時の私。
今日の丁寧なサービスに戸惑いを隠せない私を見たら、いったいどんな顔をするだろう。
そんなことを思いながら、人間ドックの支払いを終えた。