中国語音読サークル「玲瓏(りんろん)」の主催者講師である井田綾さんのメルマガで、
『中国語のゴールはたくさんある:音読の流儀3種、いや6種』という記事がある。
その後メルマガで案内があり、
皆さんが見たことのある、「日本語母語話者が日本語訛りのある中国語でもしっかりコミュニケーションを取っている、仕事で信頼されている」ことが分かる動画があったら、教えていただけませんか?(メルマガより)
そこで私もある作品を推薦したのだが、井田さんから思いもよらぬアドバイスが。
「今回のメールで書いて下さったお話、ちゃーちゃんさんがブログで書かれたらどうですか?
私が紹介したら、もったいないです。」
部下の功績を自分のことのように発表する上司には、何度も出会い、悔し涙を流したが、
私の発言にもきちんと耳を傾け、それを認めてくださった上で、さらに次のステージを用意し、導く。
本当に素晴らしい講師である。
そこで今日は、井田さんからも背中を押され、作品を発表したいと思う。
推薦した作品とは?
中国残留孤児「陸一心」の波乱万丈の半生を描いた作品である。
NHKの放送70周年記念番組として日中の共同制作によりドラマ化され、日本では高い評価を得た。
ただ中国では一般放映には至っておらず、私としては中国でこそ放映をしてほしいと思っている。
中国語学習者の私。もちろん、俳優さんたちの中国語が気になる。
驚くべきことは、主役の陸一心を演じた上川隆也さんは、中国語が全く話せず完全に耳からのみで、
これらのセリフを覚えたということである。
当時キャラメルボックスの劇団員だった上川さん。
セリフ覚えの速さから、メンバーからは「サイボーグ」というあだ名をつけられている。
ちなみに日本語の台本は一度読めば、ほぼ暗記できるとのこと。
原作者である山崎さんは、陸一心役は本木雅弘さんに演じてもらいたいと思っていたらしいが、
放映を見て「上川さんでよかった」という言葉を残されている。
上川さんご自身もおっしゃっていたが、中国語はいまだに全く分からないとのこと。
そのため撮影の約半年前から発音の先生につき勉強し始め、セリフを録音してもらい、
それを時間があれば聞いては声に出しと、中国語漬けの毎日を過ごしたようだ。
またその努力をたたえるかのように、中国人の父親の陸徳志役を演じた朱旭さんも、生前に
上川隆也さんに対する印象を聞かれ、こんなコメントを残している。
「彼のことがとても好きですよ。日本に行くたびに会っています。演技に真面目に取り組み表面だけではなく内面から演技をしようとします。どこにいても役のことを考え、役になりきるために非常に努力をしていました。
会うときは必ず抱き合います。私は上川さんのことを「一心」と呼び、上川さんは私を「お父さん」と呼ぶこともあります。
初回上映の1995年は、まだ中国語が分からないどころか、中国そのものに興味がない私であった。
そして月日が流れ、留学準備をしているときに、ふと思い出したこのドラマ。
TUTAYAでビデオを借り見直したときに、物語に何度も出てくる中国語の「日本人」という単語は
確実に聞き取れるようになった。
そして現在。字幕なしでも対応できるようになり、俳優さんそれぞれの訛りも聞き取れるまでになる。
でも上川さんへの尊敬の念は、全く変わらない。
もし私が陸一心役をつとめるとなれば、これだけのセリフ量を覚えるだけでも一苦労なのに、
中国語ゼロベースで演じているなんて、ほとんど考えられない。
中国語でくじけそうになれば、購入したDVDを引っ張りだしてはこの作品を見る。
上川さん演じる陸一心、そして上川さんの中国語に、何度も何度も支えられてきた。
ぜひ一度と言わず、この名作を、そして上川さんの中国語を堪能していただきたい。