ちゃーちゃん@中国瀋陽

オンライン中国語講師|中国語ネイティブの発音と、より楽しく学べる方法を模索中|漫才や“脱口秀”など、面白い事(言葉遊び)が大好きな関西人

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情熱中国(3-1)【後藤ゆかりさん・中国語通訳(司法、その他全般)】

中国にゆかりのある「人と人」「人と情報」をつなげたいと、先月から新企画として

稼働し始めた「情熱中国」

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(※決してパクリなどはしておりません。もとが良いので、敬意を表し、少々拝借しているだけです。)

 

今まですでにお二人にご登場いただき、いずれの回も多くの方にご覧いただけ

この企画を始めて良かったと、心から感じている。

これまでの『情熱中国』の記事はこちらをクリック

 


 

さて、本日第3回目のゲストはフリーランス通訳の、後藤ゆかりさん。

 検察庁や警察での取り調べ、裁判所での法廷通訳など司法通訳を中心にフリーで中国語の通訳をしています。
 商談・視察団訪日・司会・レセプション・テーブル通訳、観光や買い物の同行、海外出張への同行などにも対応いたします。
 個人・法人を問わず、通訳を必要とされる皆様からのご依頼をお待ちしております。

 「中国語に関する職務経歴書」はこちらから

ameblo.jp

 

また、みののわラジオ放送局で「ゆかりん、周ちゃんの今宵もパンダ~ず」の

メインパーソナリティもおつとめである。(HPはこちらから)

令和第1日目の5月1日。番組の中でこの企画のインタビューについても触れていただき、

大変感動した私は、思わず3回連続して聞き直したほどだ。

 

  

3度目は嬉しさを抑え切れなくなり、「ちゃーちゃん」という単語ぐらいしか

日本語が分からない主人を呼び寄せ、我が子を私の膝に座らせて家族3人で聞き入った。

 

放送内で、もう一人のパーソナリティである周ちゃんが 、“このくらい”と言って

大きさの表現されたとき、間髪入れずに“このくらい”のご説明をされたゆかりんさん。

目の前の事実を正しく伝えよう、そして第三者がこの言葉で誤解がなく、理解しているかを

常に考え、確認し、行動されていらっしゃる方なんだと改めて実感した。

 

実は今回のインタビューにゆかりんさんは2時間以上もお付き合いくださり、それでも

まだまだ聞き足りないと思うほど、大変素晴らしい内容だった。

中でも司法通訳については、なかなか知り得ることのない世界のお話しであり、また

中国語スピーカーだけでなく、他の言語の方にとっても非常にためになり、

参考になるお話しだったため、お伺いしたお話をできる限り再現したく、

連載にてお伝えしたいと思う。

 

それではそのご経験からの哲学を感じ取っていただくためにも、後藤ゆかりさんへの

インタビューをぜひ、ご覧いただきたいと思う。

 


 

 この度はインタビューにご参加いただき、ありがとうございます。
 早速ですが、まず中国語を始められたきっかけは、何だったのでしょうか?

 もともと語学が好きで、大学では英米科に進もうと受験の準備まで進めていた時に、母方の従兄弟に言われた一言がきっかけです。彼は英語を使い海外でエンジニアをしていたのですが、「これからは中国の時代だから」とアドバイスをうけました。その時に「確かに英語は中学高校と6年間やってきたこともあり、大学でわざわざ専攻にしなくてもいいのでは?」と言う思いになり、新たに始めるなら中国語にしようと思いました。後日「そういえば私、漢文は苦手だった」と思い出し、どうしようと思ったこともありました(笑)
 とは言え、父親が麻雀が好きだったこともあり、幼い頃お風呂に入り浸かって一緒に数を数える時に「いち、に、さん」ではなく「イー、アール、サン」と数えたりしていたので、幼いころから中国語への距離感は近かったのかな、と思ったりもします。

 

 「導かれた」感じですね、よほど中国語とご縁があったのですね。
 ブログ記事などで、始めは商社にお勤めだったとのことですが、その後どのようにして司法通訳の仕事に携わるようになられたのでしょうか?

 結婚を機にそれまで勤めていた商社を退職し、美濃の田舎暮らしが始まり、専業主婦をしていました。新婚旅行中だった私たち夫婦に代わり、婚姻届は義父が提出してくれたんです。その時「うちの息子の嫁さんは、中国語が話せるんだよ」と、嬉しい気持ちから市役所の方に話したことで、たまたま美濃が中国と交流を始めることも重なり、通訳として呼んでいただけることになりました。 その後市役所の嘱託職員として、普段は業務に携わる一方で、中国の方が市役所にお越しになられた際の通訳として働くことになりました。県警の司法通訳は、同じく嘱託職員と働いていた方のご主人が警察官だったため、その方にお声をかけていただき登録をしました。
 中国からの訪問団の市役所への表敬訪問や、市役所が訪問団を接待し通訳をした時、 「中国語を話せることと、通訳ができることは違う」と気付かされることがあり、週1度の休みを利用して、名古屋の通訳学校に7年ほど通いました。その後フリーランスの通訳として歩み始めた時に、警察の通訳の依頼を受け、その流れで検察庁へ行った折に検察庁の登録も依頼いただき登録しました。

 

 警察と検察庁は、別々の司法通訳名簿を持っているのですか?

 昔は同じ名簿を使用していたのですが、現在は県警、検察庁、法廷と別々の登録です。また先入観を持ってはいけないということもあり、県警で受けた通訳は、検察庁、法廷では担当しないのが望ましいことになっています。そのため原則別の通訳が担当します。
 県警も検察庁も通訳の民間依頼をし始めた年に登録しているので、どちらも私が第一号に近いのではないかと思います、多分(笑)。
 さらに裁判を通訳する法廷通訳は、恐れ多いと思い登録をせずにいたのですが、司法通訳に携わり何年かしたある日、裁判所の書記官からお電話を頂戴し、登録依頼をいただきました。通常なら司法通訳をやりたくて、自分から売り込む人が多い中、今振り返ると全て人任せだった!なんて思ってしまいます(笑)

 

 これはもう中国語とは運命と言わざるを得ないと思いました。
 たとえ始まりは流れに乗るような形だったとしても、それでもお辞めにならずここまで来られたのは、司法通訳と波長が合われたのでしょうね

 単純に通訳をしていておもしろい、他の通訳より趣深いと思います。司法通訳は、人間の本質の部分、本音の部分、ドロドロした部分ですから。例えば売春エステで逮捕された女性たち。この方たちのバックグラウンドは、日本人からは想像を絶するような、過酷な環境に置かれていたりする方がほとんどです。例えば本国に子供を残してきているとか、家族のためにという気持ちを支えにしながら、自分は安いカップラーメンで何とか胃袋を満たしながら生活している人が多いです。ブランド品を買いたいから、と言うような理由で売春をしているような方たちとは違うということを、きちんと理解してもらえるような、そんな通訳を心がけています。またそういう被疑者を見下すような気持は、私は一切ありません。
 また女性同士だから分かる部分もあります。取り調べの際は、日本語では絶対に口にしないような言葉も、たくさん出てきます。余談ですが、売春業界の相場にも詳しくなりました。また中国人でも知らないであろう中国語での業界用語、隠語など、辞書には載っていないような言葉に出会えるのは、知的興奮を掻き立てられるおもしろさがあります。そういう部分が、やっていて楽しいと思えるのだと思います。

 

 インタビューをお伺いしていて、ゆかりんさんは「良いものは良い」「人の本質とは」と言うような、とてもシンプルな方だと強く感じました。人そのものを見ているという感じを受けます。

 司法の仕事は身にまとっているものをはぎ取らないといけない仕事なので、核の部分だけを見る癖が自然とついたのだと思います。着飾っているものは本物ではなく、自分をごまかすためのものだと思います。
 罪を犯す人は特別ではなく、一つ間違えれば明日は我が身だなとよく思います。もちろん計画的犯罪は別ですが、「あと一歩踏みとどまれれば」という方が非常に多いです。例えば「お酒を飲んで、自宅がすぐそこという距離でなぜ運転をしたの?」というようなことです。司法通訳をしていて、もしかしたら私もしてしまうかも、と思うような紙一重なことがたくさんあり、それらを反面教師として学んでいます。

 

 司法通訳をされていて、相手に対し「理解も同情もするけれど、でもそれは犯罪です」と言わなければならない苦しさはないですか?

 司法通訳は後ろ盾に法律があるため「ここは日本で、この法律をあなたが知る知らないに関わらず、ダメなものはダメ」と言うことができるのは、私にとっては救いでもあります。逆に商談通訳などは、どちらかが妥協するまでエンドレスですよね。司法通訳は深みにはまりそうなところを、法律という“印籠”でストップできます。

 

 私も商談通訳をしたことがありますが、終わりなき戦いだと思ったことがありました。

 昔は商社に勤めていたこともあり、商談通訳をつとめていましたが、お金が絡んでくる通訳は嫌だなと思います。「この人のお金もうけに手を貸すのは嫌だ!」と思ったこと、「このあたりでもう妥協してよ」と私の方が匙を投げたくなることがありました。
 また宴会通訳は言いたくもないおべっかや、相手を怒らせないための言葉の選択などをしなくてはなりません。それが私にはとても苦痛でした。

 

 通訳と言っても色々な種類がありますものね。

 商談通訳、宴会通訳を含む“普通の通訳”は、会話をスムーズに続けるために、言葉を足したり引いたりの匙加減は、通訳がある程度行わなければなりません。また会話の前後でつじつまが合わないものは、確認をしなければなりません。その点司法通訳は、前後の話のつじつまがあわなくても、嘘だとバレバレであっても、ありのままをきちんと正確に訳さなければなりません。“普通の通訳”ばかりをしていて、いきなり司法通訳をすると、つじつまを合わせようとかんばってしまいがちですが、それはやってはいけないことなんです。話のつじつまを合わせるのは、取り調べ官の仕事ですから。
 司法通訳の際、行っても良い足し算は、例えば元号で言っても日本に来たばかりの方は分からないので、西暦を付け加えてあげる。また日本と中国は“年越し”の意味が違ってきますよね。日本でしたら1月1日は新年ですが、中国では春節をもって新年となるので、日本では新年であっても、中国ではまだ去年であったりする日が何日か存在します。つまり「去年」という意味合いが変わってきます。そのあたりの確認、そして説明という足し算以外は、手を加えないように気をつけています。

 

 被疑者に嘘をつかれたり、話のつじつまが合わない時、「誤訳や言い間違いという私のせいではないのに!」と思われませんか?そんなときはどのように心を保たれますか?

 まず司法通訳と言っても、法廷通訳と取り調べ通訳を分けて考えていただければと思います。取り調べ通訳は、始めはほとんどが嘘。あるいは被疑者は、罪そのものは認めているけれど、罪を軽く申告する人が多いです。その時はあくまでも「被疑者」が、先程とは違うことを言っているというスタンスで臨んでいます。取調官に日本語で少しフォローをいれて「私じゃない」と言ったこともありましたが(笑)。
 私の立場は、被疑者が以前何を言ったかを覚えてなくていい。今に集中して、今言ったことを確実に伝えることに全神経を使っています。

 

 法律、裁判などと言うと、特殊な専門用語が出てくるのではと思うのですが大変ではないでしょうか?

 語弊があると申し訳ないのですが、計画犯罪でない限り、通常罪を犯してしまう方々は教養レベルがそれほど高くない人たちが多いです。その人たちに日本語の法律専門用語をそのまま中国語に訳したところで、正直理解してもらえません。
 県警や検察庁の方、裁判長などが使われる専門用語を日本語で正しく理解し、その内容をいかに噛み砕いた中国語に通訳できるか。それゆえに専門用語に関しては外国語レベルというより、日本語での理解力が試されると思います。
 日本語の法律用語に関しては業務の中で覚えていったり、先輩や取調官に質問したり、裁判所が出版している用語集から学んだりします。
 また被疑者の立場からすれば、自分の言葉を理解してもらうには中国語ネイティブの通訳の方が有利だと思いますが、その訴えを聞き、判断するのは日本人なので、取り調べや裁判となるとやはり日本語ネイティブの通訳の方が有利だと思います。日本語が本当にお上手な中国語ネイティブの方もたくさんいらっしゃいますが、日本語ネイティブの私には、やはり日本語では敵わないと思います。違和感のない日本語で被疑者の訴えを伝えた方が、深く理解してもらえると自負しています。
 実際、「私の通訳者さんが日本人で良かった」と被疑者から言われたこともあります。

 

(第2部につづく)

情熱中国(3-2)【後藤ゆかりさん・中国語通訳(司法、その他全般)】

情熱中国(3-3)【後藤ゆかりさん・中国語通訳(司法、その他全般)】 

 


 

これまでの『情熱中国』の記事はこちらをクリック

 今後も中国(あるいは中国関連)で奮闘される方を取材、あるいはインタビューをし、「人と人」「人と情報」をつなげたいという理念のもと、有益な情報を皆さんにも共有していただけるような、そんな企画になればと思っております。

 ある日突然、インタビュー依頼のご連絡が届いた方には、ぜひ今お持ちの専門性、独自性、影響力等の非常に価値のある情報やご経験、熱い思いを、存分にお伝えいただければと存じます。また逆に中国、あるいは中国語で「こんなことを知ってほしい、こんなことを伝えたい」という情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報いただければ、取材やインタビューをさせていただきたいと思います。

 これからもこの企画をはじめ、ブログをご愛読いただければ幸いです。