『究極の中国語リスニング Vol. 1』発売記念として、前回の記事では自己紹介をさせていただきました。
今回は実際に出版に関わっていくお話をしていきます。
- 出版のお声がけをいただいた時の気持ち
- 初稿の締め切り──作品が形になる第一歩
- 初校戻し──作品としての第一歩
- 表紙や帯のデザイン決定──満場一致の奇跡
- 本文以外の執筆と方針決定──緻密な設計の積み重ね
- 再校・三校──言葉の選び方まで徹底的に整える
- 録音と再録──「音」に宿る学習のしやすさ
- 念校──締め切りの最後の1秒まで修正を繰り返した日々
- オンラインだけでここまで作り上げた一冊
出版のお声がけをいただいた時の気持ち
実は、出版というのは私にとって夢の一つでもありました。いつかは携わってみたいと思いつつも、どこかで「こんなチャンスは巡ってこないかも…」とも考えていました。
そんな時、ある1通のメッセージが運命を変えました。上野先生からの連絡でした。
忘れもしません。ちょうど瀋陽の短い春が過ぎ、急激に暑くなり始める5月のことでした。ご連絡を差し上げると、まさに今回の出版のお話。最初に聞いた時の率直な気持ちは、「エイプリルフールは過ぎているけれど?」というほど信じられないものでした。
さらに、ご一緒するのが太田先生と許先生だと知り「何があってもこのチームでやりたい!」と強く思いました。
こうして始まった今回の出版。しかし、その道のりは決して平坦なものではありませんでした――。
初稿の締め切り──作品が形になる第一歩
お声がけをいただいてから約3か月半が経ったころ、ついに初稿の締め切りを迎えました。初稿とは、提出した原稿や素材をもとにデザインを施した最初の制作データのこと、または文字どおり最初の校正作業を指します。
この時期、私は大学院のコンテストの準備も並行して進めており、まるで時間が溶けるように過ぎていく毎日でした。 さらに、夫の入院という予期せぬ出来事も重なり、 「今日も夜が明けてしまったな…」と言う日が何日も続くほど、寝る間を惜しんで原稿と向き合う日々を過ごしていました。 1分1秒が惜しく、どこに行くにも走り回るような生活でした。
それでもあとで聞いてみると、どの先生方も同じようにお忙しい日々の中で、懸命に時間をやりくりしながら進めていました。 誰もが限られた時間の中で、自分のベストを尽くしていたのだと思うと、改めてこのプロジェクトに関われたことのありがたさを感じました。
初校戻し──作品としての第一歩
初稿前は、まだWordなどに書かれた“データ”の状態だった原稿が、DTP(パソコン上で印刷物のデータを制作すること)の作業が終わり、私たちの手元に戻ってくることを「初校戻し」と呼びます。書籍として形になり始める、まさに「作品としての第一歩」を踏み出す瞬間でもあります。
初校戻しでは、
- 語彙や脱字のチェック
- 各課のボリューム感の調整
- 他の課とのつながりを確認
- 書籍全体としての統一感の検証
など、さまざまな視点から原稿を見直していきます。
もちろんDTPに依頼する前にも何度もチェックを重ねていたつもりでしたが、いざデザインされた状態で見てみると、まだまだ粗削りであることを痛感しました。
- 文章の流れはスムーズか?
- 視覚的に読みやすいか?
- 学習者にとって理解しやすい構成になっているか?
細かい部分まで注意を払いながら、さらに磨きをかける作業が始まりました。初稿の完成はゴールではなく、本当の意味でのスタートライン。この段階から、より完成度の高い一冊へと仕上げていくための、細かい調整と修正の日々が続いていきました。
表紙や帯のデザイン決定──満場一致の奇跡
表紙や帯のデザインは5パターンほどの候補がありました。どれも魅力的でしたが、本当にこの5人はご縁があったのか、多数決を取ると満場一致で「これだ!」と決まることが多かったのです。
帯のデザインについても、
- 書籍の内容が直感的に伝わること
- 学習者が手に取ってみたくなること
を念頭に置き、細部まで検討しました。
また、「親子げんか」など、帯の部分に書籍内のタイトル4作品をピックアップする作業も慎重に進めました。どのタイトルを選べば、よりこの本の魅力が伝わるだろうか?何度も候補を出し合い、時間をかけて議論を重ねた上で、ようやく決定に至りました。
本文以外の執筆と方針決定──緻密な設計の積み重ね
本文だけでなく、それを補完するリード文やコラム、確認クイズ、スキルアップなども単なる装飾ではなく、学習のしやすさを追求した重要な要素でした。
- リード文やコラム→ 本文のヒントになりつつも、答えが分かってしまわないように慎重に表現を吟味
- 確認クイズ→ 一度すべて書き上げたあと、「本当にこのクイズでいいのか?」 を見直し、全編書きなおす
- キクタン掲載語→ ただ単語を並べるのではなく、学習者が実際に活用しやすい配置を考え抜き、漢字の画数を優先するか、はたまた音の並び(アルファベット順)より、同じ漢字を使った単語を優先するか?
- 変調したもの、例えば“不”や“一”の並べ方は、どうするのか?
といった細かなルールを決めるために、著者4名と編集のりっひさんで何度も話し合いを重ねました。
書籍全体の統一感を損なわず、かつ学習者にとって分かりやすいものにするため、どの部分をとっても試行錯誤の連続でした。
再校・三校──言葉の選び方まで徹底的に整える
再校(2回目の校正)の段階では、他の先生方との統一感を出すことが大きなテーマとなりました。
例えば、文法解説では、
- この言葉は学習者にとって分かりやすいか?文法用語はどう処理するか?
- 他のページと表現がズレていないか?
- 同じ単語を時には漢字で、時にはひらがなで書いていないか?
を細かくチェックし、必要に応じて修正を加えました。
そして三校(最終校正)に入ると、通常は誤字脱字の修正に留まることが多いのですが、今回はさらに「解説の項目そのものは本当に適切か?」 という観点で再々検討を行いました。
つまり学習者がつまずきやすいポイントに、もっと寄り添った説明ができるのでは?そんな思いから、最後の最後まで粘り強く改善を重ねました。
録音と再録──「音」に宿る学習のしやすさ
録音作業では、発音やリズムの細部に至るまで、一切の妥協を許しませんでした。
そのこだわりと言えば、例えば語気助詞“啊”の音の高さについては、より自然な発音を求め、ネイティブの許先生も文字だけでは伝わり切れないかもしれないと、音源を録音くださったりしながら、何度も録り直しをお願いしました。
また、各章のスピードの統一も重要なポイントで、本書では章ごとにスピードが変化していく仕組みになっているため、
- 全体の流れに違和感が生じないようにすること
- 4名のナレーターの先生方がバランスよく統一できるようにすること
これらを意識しながら、慎重に調整をお願いしました。
念校──締め切りの最後の1秒まで修正を繰り返した日々
そして迎えた念校(最終チェック)。この段階では、著者4名と編集のりっひさんが、締め切りの1秒前まで原稿とにらめっこしていました。
些細な表現の違いで、読者の理解が変わることもあるため、「ここはもう少し、こう直したほうが伝わりやすいかもしれない……」その気づきがある限り、修正作業は続きました。
結果、最終締め切りの正午12時を迎えた瞬間、徹夜作業をしていた私は力尽き、そのまま爆睡というエピソードまで生まれました(笑)。
オンラインだけでここまで作り上げた一冊
それぞれが関東、関西、九州、瀋陽在住でオフラインで集まる機会がなかったため、
Googleスプレッドシートをフル活用し、リアルタイムで原稿を更新
チャットやコメント機能を駆使し、24時間いつでも修正や意見交換ができる環境を整備
Discordで次回の議題や情報を常に共有
全員が同じ方向を向き、意見を出し合いながら進めることで、実際に顔を合わせずとも、強固なチームワークが生まれたと感じています。
今日は主に、出版に関わる作業についてお話しました。これから出版を目指されている方に、何かのヒントになれば幸いです。さて明日は切り口を少し変えて、先生方や編集者をご紹介します。