ちゃーちゃん@中国瀋陽

オンライン中国語講師|中国語ネイティブの発音と、より楽しく学べる方法を模索中|漫才や“脱口秀”など、面白い事(言葉遊び)が大好きな関西人

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情熱中国(7-1)【薛氷さん・レザークラフト職人】

中国にゆかりのある「人と人」「人と情報」をつなげたいと、先月から新企画として

稼働し始めた「情熱中国」

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(※決してパクリなどはしておりません。もとが良いので、敬意を表し、少々拝借しているだけです。)

 

お蔭様で無事に回数を重ね、今回で第7段目を迎える。

たくさんのご反響を賜り、改めてこの企画に携われる嬉しさを噛み締めている。

これまでの『情熱中国』の記事はこちらをクリック

 


 

さて、本日第7回目のゲストはレザークラフト職人の、薛氷さん。

 

薛さんの工房で行われたインタビュー。

工房に一歩足を踏み入れると、皮革の香りがお出迎えしてくれた。

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6月の爽やかな瀋陽の風に吹かれながら、中国緑茶を楽しみ、和やかな雰囲気で

作品に対する思い、中国と日本のレザークラフトについて、熱く熱く語ってくださった。

今回は、私の叶えたい目標の1つでもあった全編中国語でのインタビューだった。

 インタビュー模様

(冒頭はインタビュー音源をそのまま掲載すると思っていた薛さんに、私が文章に起こし直すことをして、安心された一幕である。二幕目、よく聞いていただくとお茶を注いでくれる音がお聞きいただけるはずである。インタビューに応えながら、あくまでも気配りを忘れない、そんな中国スタイルらしいインタビューだった)

 

職人らしく「単語」にもこだわりがあり、さらには中国人であるというルーツを大切に

されていらっしゃることもあり、言葉の端々に諺や文化的色彩の強い表現が並ぶ。

またインタビューの音源からもお聞きいただけるように、ご自身がインタビューに答えながら、

お茶を注ぎ、その場の雰囲気も楽しむという、実に中国の方らしいおもてなしだった。

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また作品を取り扱うその大きな手は、まるで乳児を抱きしめるように優しく、

作品を見つめる瞳は、子供を見守るように暖かい。

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比較的大きな体から創り出される、精密で繊細な模様に思わずため息が出そうになる。

そのリズミカルな動きは、まるで工具そのものが皮革の上でダンスをしているようだ。

 

それではその作品に対する思い入れ、そして職人精神を感じ取っていただくためにも、

薛氷さんへのインタビューをぜひ、ご覧いただきたいと思う。

 


 

 この度はインタビューをお引き受けくださり、ありがとうございます。
 それでは早速お伺いしたいのですが、まずレザークラフトに興味を持ち始めたのはいつですか?

 もともとデザイナーだったため、普段から海外の情報や写真、素材をいつもネットや雑誌で見ていました。ある日たまたまレザークラフトの記事を目にし、非常に気になりました。それが約十数年前です。その時「こんなに薄い皮革に、これほどまでに綺麗で豊富な模様を彫ることができるなんて」と摩訶不思議な感覚がし、現実離れしているとさえ思い、一気に引き込まれました。その後、あの衝撃と感動が忘れられず、積極的に関連資料を探し出すようになったんです。実は当時、Leather Craftという英語の意味も分からず、(中国語では)「皮雕」と言う意味だと調べたことを、今思い出しました。
 私が興味を持ち始めた頃は、中国はレザークラフトをまだまだ目にする機会はなく、ほとんどの方がこの業界は言うまでもなく、作品そのものを知りませんでした。そう考えると、私はかなり早い時期からこのレザークラフトに接していたと思います。

 

 レザークラフトをお仕事として始められたのはいつからですか?

 2013年です。それまでもデザイナーをする傍ら、彫刻にも興味があり、木雕(=ウッドクラフト)や核雕(=クルミクラフト。クルミの殻に彫刻を施すこと)も携わっていました。実際にクルミクラフトの工具は今でも持っています
 「レザークラフトの道を歩もう」と思い始めた頃は、実はデザイナー業界に嫌気がさしていた頃でした。というのも、中国のデザイナー業界は意識が高い人が非常に少なかったからです。私が彼らに対する評価は「デザイナーであって、デザイナーでない」と思っていました。その意味を具体的にお話しすると、彼らはデザイナーと名乗るものの、結局はデザインソフトの操作方法を知っているだけで、デザインのネックである発想や構想、感性がなかったからです。そのためこのままこの業界にいても、自分の思いをデザインとして表現するのは非常に厳しいと思い、新しい扉を開けようと決意しました。
 一方で中国の諺に「三十不学艺(=六十の手習い。通常の習得期を過ぎてから決心して稽古を始めるの意)」と言われるように、この年齢で新たに技術を学ぶのは、それはもう大変険しい道のりでした。くじけそうになった時は、古人は人生が短いため30歳と言ったが、今の30歳とは意味が異なる。まだ取り返せる、技術をモノにできると自分を励ましていました。
 レザークラフトの技術ももちろんですが、事業として考えた時に、自分には何が足らないかは理解していましたので、約1年かけて技術の向上や知識、起業準備を進めました。

 

 技術、知識、事業体制…、どれが欠如しても成り立たないですよね。それではこのレザークラフトが“お金”になると、どのように知り得たのですか?

 実は始めた頃は“お金”になるとは正直思っていませんでした(笑)。
 「絶対にこれだけ売ろう」というような考えはなく、1作品1作品を丁寧に作り上げていけば、結果が付いてくると考えています。また職業にはするものの、これだけで生計が成り立つとはあまり考えておらず、副業をしていました。

 

 では、“究極の趣味”だったのですか?(笑)

 私は投資の一つだと思っています。何事でもそうですが、なにか1つを一生懸命に取り組むとき、その物事を長く続ければ続けるほど、価値が出てくると思っています。この考えが根底にあり、長く続けたいものと考えた時レザークラフトが頭に浮かび、それにかけてみたいと思いました。

 

 確かに私の中国語も始めた時は「人生をかけた投資」だと思いました。まだまだ回収途中ですが(笑)
 薛さんの目から、中国のこのレザークラフト業界の発展状況はどのように映りますか?

 発展のスピードはとても速いと思います。
 レザークラフトは台湾ではかなり早くから認められていましたが、大陸に関して言えばこの10年程のことです。しかしこの10年でそれぞれの小さい区分けで有名人が出てきました。

 

 「小さい区分け」とはどういう意味ですか?

 デザインやパターン(型紙)、カービング(彫刻)、縫い合わせ、色づけなどのそれぞれの分野のことです。
 この10年間の著しい発展スピードではありますが、色んなレベルの方がいらっしゃります。職業として携わるプロと言うより、大多数の方がセミプロ(愛好家)で、趣味の一環でいうレベルです。
 さらにプロでさえも、デザイン専門、カービング専門と言うように分野によって技術も知識も異なるため、分野を越えて全てこなすことには大きな壁があります(=一つの分野に特化している方がほとんど、という意味)。そのためプロとデザインからパターン、カービング、縫い合わせ、時には色づけに至るまで全てを一人でこなせる方はほとんどいらっしゃらず、私の知る限りではほんの十数名ほどです。こんなに大きい国家からすれば、非常に少数だと思っています。
 一方日本は、第二次世界大戦後から発展し始めたため、今では100年近い歴史を持つ業界です。そのため日本には多くのレザークラフトの偉人がいらっしゃいます。またレザークラフト職人、クリエイター、さらには講座や体験レッスンなどもあり、業界が一種の組織として稼働しています。そう考えれば中国はまだまだこれから、と言ったところですね。
 ただ現在は科学技術の発展に伴い、以前に比べ情報収集やコミュニケーションが便利な時代になりました。そのため日本やアメリカから、技術を習得したり、情報交換がしやすいと思います。中国のレザークラフト業界の底上げのために、技術や情報、ノウハウをうまく取り入れ、組織的な取り組みがこれからは必要だと考えています。

 

 確かに10年と100年の差は大きいですね。薛さんは中国のレザークラフト業界で、ご自身の位置づけはどのように思っていらっしゃいますか?

 先ほどのご質問の続きになりますが、中国のレザークラフト業界全体はまだまだ発展途上のレベルです。そのためレザークラフト職人としては、7分目あたりではないでしょうか。

 

 かなりご謙遜されていらっしゃいませんか? 私は巨匠だと思っていますが…。

 ハハハ。そこはご意見を尊重します、捉え方は人それぞれですから(笑)。

 

 では、プロとセミプロの違いは何だと思われますか?

 レザークラフトは、一見簡単に見えるかもしれません。実際、講座を少し受講しただけでも、キーフォルダーのような小物ぐらいは作れるようになります。ただ、職業とする場合は多くのことに、気を配らなければなりません。例えばバッグの場合、使い勝手としてのデザイン性、さらには見た目としての美しさも考慮しなければなりません。ただ残念なことに、このデザイン力と美的センスは多くの方が不足がちです。
 彫刻に限って言えば、先ほどの2つより比較的簡単です。と言うのも、時間を積み重ねていきさえすれば、技術は上がってきます。真面目に取り組んでいれば、いつの日かバッグなどを作れるレベルに到達することができます。
 ただ技術があれば、レザークラフト職人になれると思われている方が少なくありません。これは大きな誤解です。デザイン力や美的センスこそが神髄で、これらは本当に気が遠くなるほどの長い年月をかけ、積み重ね、磨いていかなければ手にすることができないものだと思います。
 私もレザークラフトに出会うまではデザイナーの仕事をしており、生活の全てをデザインの視点から捉えていました。勉強はもとより、足も使って素晴らしいものに触れてきました。レザークラフトとウッドクラフトやクルミクラフトを比較すると、実際に目に映るデザイン、パターンの仕方、使う工具などはもちろん異なりますが、デザインに対する理念、手段や様式は共通していると思います。

 

 レザークラフトをはじめ、このような“芸術”に携わる方は、デザイン力や美的センスがなければ「上手なコピー製品」止まりで、作品を生み出すことはできないと思います。まさに中国語の「十年磨一剑(=常に刻苦奮励して努力を怠らなかったことの意)」ですね。
 それではデザインのインスピレーションはどこから来るのでしょうか?

 「さまざまな物から」と言えます。というのは私の作品は完全オーダーメイド制ですので、お客様の要求がまず1つ目です。お客様が異なれば、おのずと違う要求になります。そのためお客様の要求に合わせ調べたり、実物を見たり、インプットを増やすために常に違うもの新しいものに触れたりしています。2つ目は長年培ってきた「感覚」です。例えばA領域のものを、BあるいはC領域に取り入れたりすれば面白いのではと考えるセンスです。3つ目は社会の観察力と、物に対する認識力です。
 これら3つに加え、ニーズの探求(今何が求められているか、流行っているか)と、ニーズの満足(そのニーズを満足させられているか)も大きな要素です。

 

 なるほど。自分よがりの作品では趣味の領域になってしまいますよね。

 自分を表現できる作品を作り出すのは、先ほどの繰り返しになりますが、細部に渡り技術的なものだけでなく、美的センス、ビジネスとしての認知力が合わさってこそ、やっと創り出せるものだと思います。それら一つ一つの要素が化学反応し、他の職人やクリエイターが持ち合わせないものが出てきて、結果独自作品になるのではないでしょうか。

 

 一方で有名になればなるほど、あるいは個性的な作品、目新しい技法であればある程、コピー商品、あるいは偽物が出回ると思うのですが、これについてどのようにお考えですか?

 確かに全体的なデザインだけでなく、ある一部分のデザインをコピーしたような商品も、中国に限らず、日本でもコピーされることはたくさんあります。  レザークラフトの歴史は数百年ありますが、今まで世の中に一度も発表されたことのないデザイン要素は、ほぼないと思います。なぜなら作品そのものが、ニーズやお客様からの要求、積み上げてきたスタイルによって生み出されるものだからです。
 私自身については、コピーをされることはある程度仕方ないと思います。そのため例えば天体や天文現象、宇宙や大自然の要素を取り入れたり、異なる領域を組み合わせたりして、新しい概念を常に取り入れ、試していくことで自分のスタイルの幅を広げていこうと思っています。批判と言うことでは決してないですが、一部の方は、ある特定の素材(例えば猫、犬など)を用い、自分のスタイルを確立させ、「らしさ」を表現されたりします。ただ私自身は、まだスタイルを限定する必要はないと思い、いろいろな分野の作品を制作しています。
 一方で私は中国人として、積極的に中国の古典的要素も取り入れていきたいと思っています。それらは私のコアの部分を表現でき、同時に自分らしい作品が生み出せると考えているからです。中国文化の基盤がない方がコピー作品を制作したとしても、きっとその違いについて、分かる方には分かっていただけると信じています。
 少し質問内容から離れますが、経済も発展した今、人々のニーズも機能的や物理的なものから、心理的なものへと変化を遂げています。私が創り出したい作品は、そういう欲求を満たしたものなのです。レザークラフト仲間で「実用的なバックとは?」というテーマで話し合ったことがあるのですが、その答えは「スーパーの袋」でした(笑)。野菜や果物を買っても入れられ、汚れても気になりません。いらない時はポケットにしまうこともできます。確かに実用的ではありますが、まさかスーパーの袋を持ってレッドカーペットは歩けませんよね。スーパーの袋自体を「作品」、あるいは「芸術品」とは呼べません。私が目指している方向は、そういう心理的ニーズを満たす作品を創り出すことです。

 

(明日の第2部につづく)

 


 

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 今後も中国(あるいは中国関連)で奮闘される方を取材、あるいはインタビューをし、「人と人」「人と情報」をつなげたいという理念のもと、有益な情報を皆さんにも共有していただけるような、そんな企画になればと思っております。

 ある日突然、インタビュー依頼のご連絡が届いた方には、ぜひ今お持ちの専門性、独自性、影響力等の非常に価値のある情報やご経験、熱い思いを、存分にお伝えいただければと存じます。また逆に中国、あるいは中国語で「こんなことを知ってほしい、こんなことを伝えたい」という情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報いただければ、取材やインタビューをさせていただきたいと思います。

 これからもこの企画をはじめ、ブログをご愛読いただければ幸いです。