私の中ですでに月一の行事となった、音読サークル「玲瓏(りんろん)」。
今月は昨日10月15日に開催。
講師、参加者の方々もおっしゃっていたが、毎回レベルが上がっているようで、
準備にも自然と力が入る。
今回作品を選んだ背景には、深い訳があった。
という言うのは我が子がこども園に通い始めてから、特に感じるようになったのが、
言葉には「音」のほかに「色」があるということだ。
中国語で役、あるいは役柄を「角色」と言う。まさに「色」があり、
同じように生活にも、やはりこれまた「色」が存在する。
つまり私という同一人物でも、妻、母、娘、息子の嫁と役割に応じ「色」が変化し、
さらに喜怒哀楽の感情にともない、「音」が変化する。
言わば、人にはいろいろな「音色」があり、それは状況や立場により随時変化する。
例えば中国語の「好吗(=良い?)」。
ピンインという発音記号は、Hǎo maという三声と軽声が組み合わさった音。
しかし「音色」が変われば、その聞こえ方はずいぶんと異なる。
同じ「母」としてでも、我が子を躾けるときと、なだめる時では全く音色が異なる。
また主人か我が子か、と話す相手により、同じ音でも音色はずいぶん異なる。
その音色の切り替えを、より多種多面に、素早くできるようになりたいと、
一人二役の戯曲を音読することに挑戦しようと思った。
結果、選んだ作品は『雷雨ーー第二幕』。(音読作品のダウンロードはこちら。)
1934年初出以来、おそらく中国語で書かれた戯曲で最多上演回数を誇る作品であろう。
あらすじや背景については、摂南大学外国学部の瀬戸宏氏が公開されているので、
ここでは割愛することにする。(資料のダウンロードはこちら。)
この作品の第二幕は、周萍(男)と魯四鳳(女)の『身分の違う愛』を描いており、
お坊ちゃまで父を恐れ、「愛」と言葉にしつつ、煮え切らない態度の周萍と、
周家の女中である四鳳が、「愛」と言う気持ちと同時に、今の境遇から抜け出す
唯一の希望である周萍に甘え、彼を試し、なんとか彼を引き留めておこうとする
ねっとりとした感情が映し出されている。
正直に話そう。
私はこの女(「女性」ではなく、あえて「女」と言いたくなる性格)のタイプではなく
主人もこの男(同じく「男性」ではなく、あえて「男」と言いたくなる性格)の
タイプではない。そのため、私の中に全くいないタイプの男女を選ぶことで、
「音色」の幅を広げようと試みたのだ。
そのため、私が試みた練習方法が色々あるので、少しご紹介したいと思う。
◆女性のセリフばかり、男性のセリフばかりを練習した。(ピアノの片手ずつ練習する感じ)
◆それぞれの性格も含め、この女の「音色」、この男の「音色」を確立した。
◆各パートを確立してから、男女の恋仲としての会話を総合練習した。
◆もともとの声が低いため、男性の声の方がイメージしやすく発音し易い。そのため区別をつけるよう、高い声の女性の声を作る努力をした。
◆この会の講師の一人である熊澤みどり氏に、以前アドバイスいただいた「CCTVの高い声のキャスター」を意識するという教えを守り、彼女たちのアナウンスや、音読を何度も聞いて真似た。
◆一人二役をこなすため、間合いの取り方を学び、いかにも二人が会話をしているかのように研究した。
◆中国語、日本語、英語、3か国の言語の動画を見比べ、中国語の間合いの特徴を研究した。
◆「相声(=中国語の漫才)」や小品などを見て、役柄に応じた声や、中国人の喜怒哀楽の「音色」を特訓した。
◆音読好きの主人。(言わなくても覗きにくるため)会話の相手役をお願いし、会話のリズム感を体験した。
準備も着実に行っていた矢先、なんと先日13日頃から喉の調子がおかしくなる。
「また、やっちまったぁ~」というのが、正直な感想である。
私の体は丈夫であるが、唯一の弱点が喉。
疲れをためてしまうと喉にくる。さらにここ最近、瀋陽はかなり乾燥しているため、
声が枯れてしまったのである。
おととい14日、何をどう朗読しても「嗄れ声のじいじとばあば」になってしまい、
瑞々しい若者の張りのある声が出せない。最後には声まで出なくなってきた。
そのため、我が子と散歩がてら、のど飴を買うために薬局まで足を延ばす。
「喉が枯れちゃって。そんなに痛くはないんだけど」と薬局で伝えると、
「苦いのは大丈夫か?」と言いながら、出してくれたのがこちら。
「葛根湯」より控えた苦味。私にとっては全く問題なかった。1日4回、1回2粒。
「明日、なんとか声がでますように!」と思いながら、練習もそこそこ、早めの就寝。
15日午前5時、起床。
あれだけ声が出なかったのが、なんとかお聞かせできるほどに回復。
「『鉄笛片』ありがとう、いい薬です」と、どこかで聞いたフレーズが、思わず出る。
我が子を起床させ、こども園へ届けるまでのこの約1時間半、最後の追い込み練習。
この男女の「音色」を、何度も声に出して最終確認をした。
※中国語学習者の皆さま、講師の皆さま、中国語ネイティブの皆さま
コメント欄やメールに、率直なご感想や改善点、アドバイスをお伝えいただければ
幸いです。どうかご遠慮なさらず、ちゃーちゃんの中国語向上に一役かってやろうと
ご協力いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。
この状況でも平常心で挑めたのは、会のもう一人の講師、井田綾氏の座右の銘が、
ずっと心にあったからだ。「できることを、できる範囲で、あきらめないで。」
とにかくやれるだけのことを、思い切ってやろう。そんな気持ちでいっぱいだった。
午前9時に音読会がスタート。
講師のお二人はさすがのクオリティー。いつも私が進むべき道しるべとなってくれる。
さらに今回、音読初挑戦というお二方も、今まで真剣に中国語に取り組み、
努力を重ね、向き合ってこられたんだなとすぐに分かる、素晴らしい音読だった。
最後の一人として、私に順番が回ってきた。
声がかすれなければいいなと思いながら、「音色」を意識しながら挑んだ。
照れや恥じらいは全て捨て、「煮え切らない男」と「ねちっこい女」になりきった。
読み終えた後の一瞬の静けさに緊張したが、その後聞こえてきたのは拍手。
参加者から「中国でも劇団なんかにチャレンジしてみては」というお言葉が、
素直に嬉しかった。
※音読会の様子は、主催者講師の井田さんのブログからご覧いただけます。
また音読会の記事以外にも、ためになるお話満載ですので、
一度と言わず、何度でも、ぜひお立ち寄りいただければと思います。
中国を基盤とし生活している私には、中国語の「音色」が必要不可欠である。
今回戯曲に挑戦することで、「音色」や「間合い」の違いと多様性を実感し、
今後の人間関係の構築や、コミュニケーションにも違いが出てくるように思えた。
いつも意識している「言葉に力を!」。それをさらに奥深いものにできる気がした、
そんな素敵な音読会だった。
このような「気付き」を提供してくださる二人の講師に、そしてともに学べる同志に、
今回も心より、感謝を申し上げたい。
またいつの日にか、この音読会で皆さんにお会いできますことを心より楽しみに、
さらなる高みを目指したいと思う。