異国での病院通いは、なんとも不安なことである。
両親のお蔭で、体はいたって健康。病院とはほぼ無縁の世界である私。
ところが今年3月のある昼下がり。
固い食べ物が大好きで、春節セールで買い込んだ、石を食べているのかというほどの、超固い「筷子饼(=箸ビスケット)」を、左奥歯でガリガリしていたところ…
「うぅっ!」
激痛が走る。しかも夜になっても、翌日になっても、翌々日になっても痛みが取れない。
主人に話すとその日のうちに予約を取られ、近くの総合病院に連れて行かれる羽目に。
撮られた歯のレントゲン。
「親不知が横に生えてきて、隣の歯の神経を押している」とのこと。
そりゃ、痛いわけだ。
「押されている歯の神経に注射を3度して、神経が死んで自然に抜けるのを待ち、抜けたところで親不知を抜く」との診立て。
この診断に待ったをかけた主人。
その足で中国東北三省NO.1といわれる「中国医科大学付属口腔医院」へ。
「親不知を抜きさえすれば、今痛みを感じている歯は大丈夫」との診立て。
診断結果が、きれいに真っ向から対立。
いずれにせよ、さぁ困った。まさかこの中国で親不知を抜くとは…。
しかも中国医科大学付属口腔病院の診立てには続きがあり、「右の親不知も、ついでに抜いておいた方がいいね。左のようになるのは時間の問題」。
なんと!!!
左右両方の親不知を抜くとは!!!
さすがに日本に帰国して抜歯することも考えている私の隣で、主人と歯科医との間でどんどん話が進んでいく。
ふと我に返ると、「翌日朝いちで来院、アレルギーの血液検査のため絶食。問題がなければ午後に抜歯」とのこと。
翌日午前8時。不安で眠れず目の下にクマができた顔で、血液検査。望んでいないのに無事にパス。
午後の待合室、前歯4本抜いてきたという女性がジェスチャーでやたら話かけてくる。
「もう、お願いなので一人にして」とつぶやきながら、子供を抱っこしながら待つこと10分。診察室のベッドへ通される。
「もうまな板の鯉。どうにでもして!」
麻酔もされて覚悟を決めて臨んでいるのに、やたら愉快に話かけてくる助手。
口もしびれて話しもできず、前の患者の奥歯を必死で抜いている先生を横目に、
「先生早く!」と順番を待つ。
先生が所定の位置へ。「さて!」と言ってからが早い、早い。
大きく口をこじ開けられ、ウィーンという音と同時に、歯と機械の摩擦で焦げたようなにおい。
あれ!? 全く痛くない!
「がんばれ~!」と陽気な助手。いやいやいや、と思うけれどこれまた痛くない。
あれよあれよという間に、目の前に転がった4分割された親不知。
私釣り上げられるかも、と思う釣り針のような針で縫合。
先生が「さて」と声をあげてから、5分で終了。
脱脂綿をしっかり噛まされ、「お大事に」と見送られる。
待合室で、心配そうな面持ちの主人。その隣でちょこんと不安そうにパパの顔を見上げる子供。
こんなに楽に終わっていいの、と戸惑いながら診察室から退出してくる私を見て
「へ!? もう終わり?」と驚いた顔の主人。
10年以上も中国にいるけれど、
お恥ずかしながら正直中国の医療は全く信用していなかったんです。
さて無事に抜歯もできたことだし、今日はここまで。
帰宅後からの続きのお話しは、後日の(2)でお会いしましょう!